田村安オフィシャルブログ

オーガニッククラフトビールBlessing醸造所訪問

北アルザスの中心地Saverneに前泊

アルザス地方とロレーヌ地方の境界に広がる北ヴォージュ自然公園内の村WaldhambachにあるBlessing醸造所を訪ねるため、北アルザスの中心地Saverneに前泊した。

ローマ時代の駐屯地を起源とするこの辺境の町は、8世紀にアレマン族(ドイツ民族)が移住、ロレーヌのメッツ司教の教区だったのがアルザスのストラスブール司教の教区へと変わり、ドイツ領とフランス領と何度も変遷した所。オーベルジュに宿を取ったのだが、なんとレストランは日曜定休で食事は出せないとのことで、町に出掛ける羽目に。。。

でも、おかげで落ち着いたアルザス・ロレーヌ風の街を堪能できたのは幸い。

ぶらぶらと出かけた中心の広場は、これぞアルザスという中世らしさを残した歴史的建造物群。美味しそうな店をと探し、市役所の隣に木組みの館の由緒正し気なレストランに目を付けた。テラス席が市役所の玄関まで張り出していて、いかにも代々の市長達の恩寵を得た老舗。そのテラス席での夕食、周囲の会話にはドイツ語とフランス語が入り混じり、心地良い雰囲気。

ジャガイモベースの揚げ物にリンゴのコンポートソースとサラダ
豚肉ソテーにこってりしたソース
肉団子にクリームソース

ワインリストを見るとオーガニックワインがあったので、ピノグリを注文。メイエーさんのと比べるとコクがなく甘みが強すぎと感じたけれど、価格からしてそんなものか。。。

それでもピノグリなので、やはりクリームソースや豚肉との相性は良い。

隣の席は常連客らしい80歳台のおじいさんが一人で黙々と食べている。奥様を無くされたのか、寂しそうだが気品がありしゃんとしている。いかにも食べ慣れた様子で、前菜、メイン、デザートもしっかりと召し上がり、勘定の際に5ユーロ札をチップに渡したのをみると、きっと市長を務めた町の名士だろうと想像する。

Blessing醸造所のあるWaldhambach村へ

翌朝、WaldhambachのBlessing醸造所までの道を確認しようとカーナビに住所を入力すると1時間ほどの道程と出る。Saverneは北ヴォージュ自然公園のすぐ近くの町なのに遠すぎて変と思ったが、余裕を持って出発。道は町外れからすぐに自然公園に入り、深い森の中の山道に。左右の急カーブが連続するが制限速度は90km!でもそんなに出せない!時々森が開けると可愛らしい村々があり、50km制限になるのだが、すぐにまた森に飛び込む。そんな高速ラリーのようなコースを延々と走り、爽快な満足感を持ってBlessing醸造所のあるWaldhambach村に辿り着いたのはぴったり1時間後。自然公園の中の、なんとも長閑な村だ。

喉の渇きを潤すだけのビールから嗜好品に

フランスとドイツとの国境を流れるライン川の西側、アルザス・ロレーヌ地方は何百年もの間両国が戦争で奪い合った地方で、特にアルザスにはドイツ文化の影響が強く残っている。もちろんアルザスのワインは有名だが、ビールにも素晴らしい伝統がある。

しかしビールは嗜好品とは云えず、喉の渇きを潤すだけの飲料。

マヴィの創業期、パートナーのボアソー教授と僕がオーガニックワイン生産者を探し回ってフランス中を駆け巡った時代、一日の終わりにヘトヘトになった二人は何も考えたくないからとビールを飲んだもの。職業柄、ワインを飲む時はついつい評価しようとしてしまい疲れてしまう。

そんな「何も考えないからビール」というのは、日本の「とりあえずビール」と同じ、こだわりがない飲み物という位置付けだから、安さが勝負。特に大資本の強いフランスでは、多国籍企業の安いビールが支配している。ところが近年、クラフトビールが評価され、スーパーマーケットの棚にもクラフトビールが置かれるようになってきた。

オーガニッククラフトビール生産者Blessing夫妻

ストラスブール出身で都会のモンペリエやウィーンで暮らしたBlessing夫妻は、2013年にご主人のお祖父さん出身地であるアルザス地方のロレーヌとの境界近くのWaldhambach村に古い家を購入、ビール醸造所を作った。ご主人のThomasさんは生命工学の研究者、奥さんのNathalieさんは建築士という、超インテリ家族で田舎暮らしとは無縁だったが、自然のない都会の生活に飽きたそうだ。
元々ビールが大好きで、ガレージに醸造キットを設置してホビー醸造していたのが、ここに移って職業にした訳で、ご夫妻の生命工学と建築学の知見を活かして妥協することのない味わいを追求。科学者が自分の求める酒を造るので、原料の温度状況も発酵コントロールも万全を期せざるを得ない。フィレンチェの外科医、モレッティ博士が自分で飲みたいオーガニックワインを造るのに妥協をしないのと同様だ。

モルトのための穀物は乾燥して貯蔵できる原料だし、ホップも国際市場で調達できる。だから日本みたいな、麦もホップもほとんど作れない国でも、ビールメーカーは国産ビールを大量に生産できる。
しかしBlessingさんは地元産原料しか使わない。ここでしか作れないビールでなければ自分達にとっての意味がないから。
地元アルザスではオーガニック小麦や大麦を作付けする農家が増えてきており、ホップも手に入る。
そして水。

「生きた水」と「死んだ水」

かつて水の料理人、故ベルナール・ロワゾー氏から、「生きた水」と「死んだ水」という言葉を聞いたことを思い出した。泉の水や井戸水は「生きた水」。水道水やボトルに詰めたミネラルウォーターは「死んだ水」。
ビール造りに水はどう影響するのだろうかと、Thomasに聞いてみた。
Waldhambach村の地下水は、北ボージュ山脈の森林地帯と粘土質土壌のおかげで軟水。
北ドイツやチェコの硬水で仕込むピルツナーのような苦みの強い味のビールよりは、南ドイツ、バイエルンのシュバルツヴァルトの森林地帯の水に近く、軟らかい飲み口のアルトビール(上面発酵)やヴァイセンビールに向いているという。
大資本のビールメーカーは、消費地近郊立地のあちこちにある工場で、同じ銘柄のビールを醸造するため、水を調整している。ミクロフィルターでミネラル分を一旦除去して、決められたミネラル類を添加しているから、「死んだ水」だ。こうして世界中どこの工場でも寸分違わぬビールが造れる。

クラフトビールとは?

昨今のクラフトビールブームで、スーパーマーケットにも大手銘柄以外も並ぶようになったが、どこでも似たような銘柄が並んでいるような気がする。

さて、クラフトビールとは何なのだろう。
アメリカの定義だと、年間生産量が600万バレル(米国ビール用バレル)(約70万KL)以下、自身がクラフト・ブルワーではない他の酒類製造業者の支配する資本(株式)が25%未満、伝統的手法に革新を盛り込んだ原料と発酵技法を用いることがクラフト・ブルワリーの条件とされている[Wikipediaより]。
そうすると、サッポロビールの2018年年間生産量は38万KL弱なので、クラフトビールメーカーに入ってしまうことになる!
スーパーマーケットに出回る国際的なクラフトビールの多くはそんな大規模メーカーの製品なのだ。
ということは、いつでもどこの工場でも同じビールを造るために、遠くから運んだ原料と「死んだ水」が使われることになる。

なので、この定義は少しおかしい。
クラフト(Craft)とは手仕事。だから職人(Craftsman)が手仕事で造るビールが本来のクラフトビールのはずだ。

日本のクラフトビール(地ビールとほぼ同義)も何か違う気がする。
大ビールメーカーの資本や業務提携、日本酒メーカーの系列などもあるし、何より原料は外国産に頼っていて、地ビールというのもしっくりこない。
別に喧嘩を売るつもりはない。誰もが自分の置かれた状況下で最善を尽くして醸造をしているのは事実なのだから。
でも僕の立場は「最高のクラフトビール」を紹介しようというもの。大量に流通させたい訳ではない。

マヴィのクラフトビールの条件

なのでマヴィの紹介するクラフトビールの条件を定義してみたら、ワイン農家選びとほぼ同じ条件となった。

1. オーガニックであること
2. 家族経営であること(法人であっても実質が)
3. 高度な職人仕事であること
4. 地元の原料・地下水しか使わないこと
5. とにかく美味いこと

手作りの醸造設備から金メダルのビール!

木造のBlessing家の自宅ガレージのビール醸造設備はまさに手作り。麦汁を茹でる釜は地元の酪農家が使っていた牛乳殺菌用を中古で購入して加工。ビール醸造設備の需要は小さいため、中古でも極めて高価だが、酪農家は非常に多く、中古設備も安い。同じ理由でソーテルヌのフェルボスさんが貴腐ぶどう果汁を冷却するのに中古酪農用設備を改造して使っていたことを思い出した。
狭いスペースに詰め込んだ釜や発酵タンクの配置は効率的ではない。ビール造りは5~6週間かかる。作業導線が錯綜していて重労働、夫婦2人で働き詰めても1年間に4万リットル(40KL) 造るのが精一杯。

そんなBlessing夫妻の手造りビールを2016年にパリ農業コンクールに出品したら金メダルと銀メダルを取ってしまった。そして2017年は銅メダル。2018年は金メダルと銀メダル。この3年間の成績で、最優秀賞「Prix d’Excellence」を獲得。つまりフランスで最も優秀なビール生産者と認められたのだ。
まさに「Small is beautiful」、マヴィのオーガニックワイン生産者たちと同じレベルで語ることができるオーガニックビール生産者だ。

クラフトビールと料理のマリアージュ

Blessingさんはビールにも料理とのマリアージュ(相性)を意識している。そして温度もきりッと冷やすのではなく、白ワインの提供温度と同レベル(10℃~14℃程度)を心掛けている。冷やし過ぎたビールを飲んだところで、のど越しの爽快さがあるだけで美味しさなど感じられないから。そして冷たいビールは食事との大きすぎる温度差で、単に喉を潤すだけの存在となり、マリアージュを感じる余裕を奪ってしまう。
「自分のビールを単に消費するものではなく、しっかり味わうものとする」、これはBlessingさんのビール造りへの愛情だと思う。

ビン内2次発酵=壜詰め後も熟成する!

ビールといえば泡
ビール工場では大タンクで泡を発生させて、すごい速度でボトリングする。ボトリングから消費されるまでの鮮度を競うというのが、広告のキャッチコピーとなるくらい。
しかしBlessingビールの泡はビン内2次発酵で生まれる。つまりシャンパンと同じだ!
王冠を打ったビンの中で発酵が続き、泡ができる。そして加熱殺菌もフィルター濾過もしていない「無濾過生ビール」なのだ。シャンパンのような開栓-澱引き-再打栓はしない。だからビンには澱が入っている!
これはロワールのショヴァン家の古代製法ロゼのマムゼルビュルの澱に似ている!
市場に出回る「ビール」達とは、そもそも概念が違う。野積みされても平気な量産ビールが当然という酒類流通事情を考えたら、 かんたんに売れるはずがない。
でも、ということは「壜詰め後も熟成する」ということじゃないか!

僕が自信を持って送り出すマヴィ初のオーガニッククラフトビール「アルザスBlessing」、「ビールは飲めない」と言うワイン好きの嗜好に適うことを期待して。

2019年夏   田村 安

Blessingさんのオーガニッククラフトビールは8/1新発売!