マヴィ代表・田村安オフィシャルブログ

Organic Wine Specialist

オーガニックワインワインと料理のマリアージュワインに合う料理レシピ

アル添しない新着シェリー タイプ|食前酒だけでなく和食にもおすすめのフィノ と 甘露な極上甘口

フィノ シェリーにわかめの酢の物を合わせる

アンダルシアの銘酒シェリーとは何だろう。

イギリスの影響

スペイン最南端、ジブラルタル海峡を挟んでアフリカ大陸に接するアンダルシア州は暑く乾燥している。このジブラルタル海峡の最小幅は14㎞。ボルドーを流れるジロンド川の最大幅は10㎞だから大差ない。地政学的な要衝で、大西洋と地中海を隔てるこの海峡を制する者がヨーロッパの海を制する。

17世紀頭スペイン海軍がイギリス海軍に敗れ、この海峡の支配権はイギリスに移り、ジブラルタルの町は1713年にイギリスが併合して以来、今もイギリス領のままなのだ。

そしてアンダルシアの地酒を「世界3大酒精強化ワイン」の銘酒「シェリー」に引き上げたのは、七つの海を支配した大英帝国だ。

酒精強化ワインとアル添酒

「酒精強化」とはアルコール添加、つまり「酒精強化ワイン」とは「アル添酒」なのだが、それがなぜ銘酒?と不思議に感じるのは、僕が「日本酒なら純米酒しか飲まない」からなのだろう。日本酒マーケットは今でもアル添酒が大半を占めている。

「アル添」する理由はコスト削減と品質安定、つまり質の悪い原料からでも、酒造技術が低くても、アルコール度数の高い酒を安く簡単に量産できてしまうことだ。そしてアルコール度の高い酒は、兵隊が突撃する時の必需品でもある。

そしてアル添を正当化する理由を作り、喧伝すれば市場は信じる。市場の常識には必ず裏があると思っていいだろう。

アル添しないシェリー タイプワイン

マヴィではこれまでは12年熟成で芳醇辛口の「ドラド」だけを販売してきたが、理由は極めて恣意的で、僕が学生から社会人になりたての1980年頃に好んで飲んだシェリーのタイプが「オロロッソ」で、呼び方を変えると「ドラド」だったからだ。

新着のゴメスネヴァド家のアル添しないワインは、端麗辛口フィノ シェリータイプの「パリド」と芳醇甘口シェリータイプの「アボカド」の2種。

実はどちらもアル添しないことで、市販のシェリーとはかなり異なる飲み口になる。端的に言うと、「口の中でまとわりつかない」爽やかな感覚だろうか。

フィノ シェリー タイプのパリドを試す

まず口に含む。うーん、まさに辛口だ。12年熟成のドラドと較べると癖がなく飲みやすいが、バッサリと断ち切るくらいにエッジが立っている。アルコールや酸よりも研ぎ澄まされた鋭さだ。

ボルドー大学で学んだマヴィの醸造系エースの塩澤君によると、仕組みはこうだ。

  • シェリーの製造過程で、特有の産膜酵母はワインをまろやかにするグリセロールをアルコール度14-15%の条件で多く消費しする。
  • 一般のシェリーはアル添して一気にアルコール度を上げて15%を超えてしまうため、産膜酵母がグリセロールを消費しきれずに残してまろやか感が出るが、アルコールの高さが辛口を装わせる。
  • パリドはアルコール添加をせず、最終アルコール度が15%と低いため、長期間に産膜酵母がグリセロールをほとんど消費してしまい、ストレートな研ぎ澄まされた端麗辛口となる。

パリドは和食と合うだろうか?

この特徴を活かすと和食向けの食中酒となるはずだ。

スペインではフィノ シェリーは食前酒として飲むが、ただワインだけを飲むわけではなく、タパスに合わせるものだ。そこでいろいろとマリアージュを試してみることにした。

ワカメときゅうりの酢の物とパリド(フィノ)

酢はワインと合わせにくいというのがフランスの定説だが、このパリドはドンピシャで決まった。

ジャコおろしとパリド(フィノ)

ちょっと辛い夏大根をおろしてしっかりと絞り、ジャコをたっぷり載せただけ。パリドはジャコの香りを殺ぐことなく見事に調和してくれた。

干しいわしとパリド(フィノ)

築地で小さな干しいわしを買って来たので、さっと焙っただけ。絶対無理そうな組み合わせだが、パリドは馴染んだ。

明日葉のお浸しとパリド(フィノ)

ポランの宅配に明日葉が届いたので、さっと茹でて酢醤油に浸し、海苔を揉んで散らした。ちょっとしたえぐみはパリドと合わさるときれいに昇華した。

エノキの炊き物とパリド(フィノ)

かつお節を削り、そのままエノキにみりんと薄口醤油を注いで炊き込んだ。鰹出汁の風味が強く薫るが、パリドはそれを淡いシェリー香で包み、一段上の後味に仕上げてくれた。

空心菜の炒め物とパリド(フィノ)

空心菜をゴメスネヴァド家のオリーブオイルで炒め、バルサミコ酢と醤油で味付けた。火を通して甘い香りを放つバルサミコとパリドは絶妙の相棒だ。

比内地鶏の塩焼きとパリド(フィノ)

比内地鶏の腿肉をフライパンで焼き、仕上げにパリドを少量かけて飛ばし、戸田の海塩を振っただけのお手軽メイン料理。パリドはスパッと鳥の臭みを切り、香ばしく仕立ててくれた。

ナスの焼き物とパリド(フィノ)

我家の夏の定番メインディッシュのナス。フライパンにゴメスネヴァド家のオリーブオイルをたっぷり注ぎ、ナスを載せて蓋をして蒸し焼き、みりん、醤油で調味し、仕上げにショウガを絞りかける。パリドの辛さがショウガによくマッチして、絶品の組み合わせだ。

茹でソーセージとパリド(フィノ)

これは和食ではないが、学生時代からの僕の定番メイン料理だ。

タマネギとありあわせの野菜を炒めて水を加えたスープにソーセージを入れて茹で上げる。お好みで塩コショウ。パリドをちょっと加えるとより美味だし、シェリー風味がソーセージの生臭みをきれいに覆ってくれるから重宝。

重みのある白ワインかロゼで合わせるのがおすすめだが、パリドだとよりしっくりと来る。

パリド シェリータイプ

芳醇甘口シェリー タイプのアボカドを試す

アボカドはグラスに注ぐだけで極上の紹興酒を思わせる芳香を放つ。グラスに鼻を寄せると蜂蜜。

口に含むとこの蜂蜜感はあっという間に口の中全体に拡がって支配し、あまりの美味しさに喉が早く流し込んでくれと催促する。

喉には長いこと余韻が残り、もうそれだけで満足してしまうから、午後のティータイムか食後に味わいたい。

異次元空間を愉しむ甘露な極上甘口

この甘露な味わいは、樹上で干しぶどうのような状態になるまで待ってから収穫した過熟ぶどうを搾汁し、わずかに垂れるだけの極端に凝縮した糖度が高い果汁を発酵させて、それをアンフォラで2年、樽に移して5年の計7年間もの長期熟際させることから生まれる。ドイツワインの表現だとトロッケン ベーレン アウスレーゼのシェリー版か。

一般の甘口シェリーは、普通のぶどうを使って、発酵途中にアルコール添加して甘みを残すので、安く大量に造れるが、アルコール添加なしで造るアボカドは異次元の貴重なワインで、生産本数はわずか2,000本しかない。

スペインがイギリスに敗れる前、安土城で信長が飲んだ葡萄酒は、こんな甘露なシェリーだったろう。英国人がアンダルシアを踏みにじる前の話だから、アル添されている筈がない。

ぜひ、そんなことを想像しながら、極上甘口を愉しんでいただきたい。

シェリータイプは日持ちする

開栓後は冷蔵庫保管だが、通常のワインよりもアルコール度の高いシェリータイプワインは品質劣化しにくい。

今回はパリドと食事のマリアージュを確かめるため、開栓後2週間以上かけていろいろな料理を作ってみたのだが、切れるようなエッジが徐々に丸くなって来た感じはあったが、最後まで美味しく飲めた。

実は純米大吟醸の日本酒とも飲み較べをしてみたのだが、開栓後の変化はパリドの方が少なく感じた。

「一気に飲めない」ということを気にしなくてもいいワインなので、ぜひお気軽にご自宅の食事で楽しんでいただければと思う。

アボカドは更にアルコール度数が高く、また糖度が高いから、より保存性が高い。食中酒ではないのでちょっとずつしか進まないため、3週間以上経っているが、ほとんど変化を感じない。ナイトキャップにもピッタリなので、ぜひお試しいただきたい。

もちろん、12年熟成でアルコール度が高いドラドはパリドよりも長持ちするから、同時に開けて較べてみるのも悪くない。

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田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne