オーストリア訪問 1

旅行記

ワインの見本市VieVinumのため、オーストリアの首都ウィーンに行って来ました。

オーストリアはオーガニック農地率が20%に達する、世界一オーガニック農業が盛んな国です。
国土が狭く、2/3以上が山岳地帯、国民所得が高く、ちょうど日本とよく似た条件なのに、日本のオーガニック率0.18%に較べて、なんと100倍以上も進んでいるのです。とは言っても、オーガニックの歴史は浅く、80年代まではフランスなどに較べて後発でしたが、90年代以降急速に普及し、2000年代後半からはさらに急成長を遂げて世界一になってしまいました。

数字ではわかっていても現地を見なければ理解できませんので、このチャンスに立体的な取材をと思い、ワイン見本市に加えて、オーストリア政府のオーガニック担当官のトーマス・レッヒ氏、オーストリアオーガニック協会理事のヴェルナー・ミヒリッツ氏、オーガニックワイン生産農家訪問などを詰め込みました。

かつての超大国ハプスブルグ王朝の伝統を誇り、長らく永世中立国であったオーストリアがEUに加盟したのは1995年、農業や伝統産業は一気に国際化の波にさらされることとなりました。そこでオーストリア政府は自国の産業、経済を守るためにウルトラC級の対策を迫られることになりました。それがオーガニックという考え方の普及だったのです。政府は農薬や化学肥料は土壌と水を汚染する危険な化学物質であることをはっきりと伝え、オーストリアの土や水や景観や自然環境を守るにはどうしたらいいだろうかを、国民みんなで考えよう、という動きを創り出しました。そして農業を守ることはオーストリアの自然を守ることだと、都会の人たちもわかるように持っていきました。
それまで農林省は化学肥料や農薬を使って安く大量に生産することを推進してきたので、180度の方向転換でした。

数回に分けてオーストリアオーガニックレポートをお伝えします。
初回はオーガニック農業担当官のレッヒ氏のインタビューから。

トーマス・レッヒ氏の所属は農林環境水資源省。これだけで日本に較べてオーストリアのスタンスがはっきりわかります。
環境保護、水資源保全と農業林業が同列という意識が明確になっています。

オーストリアは山国であり、農地の2/3は中山間地で、寒冷で雨が多くて生産性が低い。そのため農業だけで生計を立てることが困難で、2/3は兼業農家、1戸あたり平均農地面積は17~20haだが、これはドナウ川流域のウィーン地方平野部の小麦畑地帯だけが広く、中山間地ではかなり狭くなる。

1980年代まではオーガニック農家はほとんどヒッピーといえる状況だったが、90年代に入り一変、急成長した。
理由は下記の通り。

1. 1995年よりEUに加盟し、国際市場に晒されることになって、その対策として政府がオーガニック農業を国内農業の保護の手段として選択したこと。

2. スーパーマーケットBILLAが1994年よりJa! Naturlichという自然を掲げたラインアップを開始して、現在600品目のオーガニック商材をリストしたこと。

3. スイスの大学が中産間地のオーガニック農業を研究してきて、その成果を導入して独自の農業技術研究を行い、政府の農業アドバイザーにオーガニック農業技術を学ばせ、これを農家に指導させたこと。

4. BIO AUSTRIA協会が会員よりの会費と政府補助金30%で、オーガニック技術情報やマーケットにつながる情報を公開して、これを農業アドバイザーが広めて、一般農家にオーガニックに関する認識が広がり、偏見を払拭して、消費者の高価でも買うというニーズと、化学肥料や農薬の購入費が不要なので、機械を導入しても長期的にはメリットがあることと、農薬の健康被害から逃れられることを伝えて、農家にオーガニックをやりたい、昔のように蝶や鳥がいる自然の中で暮らしたい、という気持ちを持たせのることに成功したこと。

5. EUのRDP予算をフルに活用して環境農業振興を行なったこと。
EUでは50%の予算補助を行なうが、50%は地元が負担しなければならないため、貧困な国では地元の支出が集まらず活用しにくいが、裕福なオーストリアでは地元負担が容易なために、EU全体で2%の面積しかない農地に対して、全体予算の9%を得ている。これには前EU農業委員だったフィシェレル氏の影響もあり、政治と官僚が効率的に取組んだ成果といえる。
現在はEUが拡大して、旧東側加盟国には75%までEUが負担するという制度もあるが、25%さえ支出できない国がほとんどであり、積極的には活用されていない。

6. オーストリア政府が掲げるRDPは次の5項目
1)伝統的非集約農業
2)自然保護
3)景観保全
4)土壌と水の保護
5)オーガニック農業

こうして2010年には転換中を含めて、農家軒数で16%、面積で20%がオーガニック化されることになった。この数字はEUでは一番である。
環境対策する農家の収入を補うために、環境農業直接支払いは6億ユーロで、その内1.5億ユーロがオーガニックに当てられていて、牧草地で250euro/ha、畑で280euro/haとなっている。オーガニックワイン農家は700euro/haの補助がある。
オーガニック農家は同じ規模で比較すると、1軒あたりの収入は慣行農家よりも多いが、労働力を外部より雇用せざるを得ないため、一人あたり収入は低めとなっている。

政府はオーガニックの成長はこのあたりまでで、今後はこの20%という水準を維持するものと見ている。

オーガニック農業の成長にもかかわらず、オーガニックワインは出遅れていた。これはワイン流通業界のオーガニックワインに対する冷淡な態度が原因だったが、2005年以降に事情が一変した。現在オーストリアのオーガニックワイン生産者は5%だが、最近10年間で3000ha以上増加していて、6倍近い急成長した。

取材後にレッヒ氏と役所の近くにあるオーガニック食品店とスーパーマーケットBillaを訪問しました。
食品店のほうは期待していたよりも商品数が少なく、価格が高いのにびっくり。オーガニックチキンは1羽2,000円近くしていました。
パンやミルクなどはオーガニックと一般品の価格差が小さいですが、畜産品はかなり割高とのことです。
Billaはどこにもある普通のスーパーですが、たしかにあちこちにJa! Naturlichと掲げたオーガニック食品が目につき、浸透している様子がわかりました。