マヴィ代表・田村安オフィシャルブログ

Organic Wine Specialist

オーガニックワインワインと料理のマリアージュワインに合う料理レシピコラム

ボジョレーヌーヴォーを黒毛和牛ステーキに合わせる

ボジョレーヌーヴォーと黒毛和牛のステーキを合わせる

2021年は歴史的な不作年

2021年、フランスは大不作年だ。春の冷害、初夏は大雨、夏は冷夏と8月の干ばつで、ぶどうの樹にとっては酷なシーズンだった。シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ボルドー等の銘醸地は壊滅的な状況で、フランスのワイン生産量はイタリア、スペインの後塵を拝して3位に後退、来春はワインの品不足が見込まれている。

ブルゴーニュに隣接し、気候的にも近いこともあり、こういう年のボジョレーヌーヴォーは一体どう仕上がってくるか、期待と不安が入り混じって解禁日を迎えた。

ちょっと飲んでみたら

口に含むと「超辛口」、脂分を瞬時に断ち切ってくれる鋭角の酸味がある。香りは淡いがイチゴはたしかに居る。完全に食中酒のポジションだ。

ビン詰めしてから3週間しか経っておらず、まだ香りも味も閉じているため、数時間前に開栓して、しばらく空気に触れさせて目覚めさせることをおすすめする。そして翌日はもっと美味しく開いてくるので、無理して飲み干さないで欲しい。

黒毛和牛のステーキとボジョレーヌーヴォーのマリアージュは?

辛口ということは「油脂を断ち切る」が、口に「甘味」が欲しくなると考えて、紫芋チップスを食べてからボジョレーヌーヴォーを口に含んだところうまくバランスした。

ふと頭に「程良くサシの入った黒毛和牛のステーキ」が浮かんだ。牛脂が甘みとなるが、脂っこさは口の中に残したくない。ビーフステーキながら赤ワインよりも辛口白ワインの方が合わせやすい。これをボジョレーヌーヴォーと合わせてみよう。

冷たい肉は焼けない

肉料理の基本だが、冷蔵庫から取り出した肉は冷た過ぎて、そのままでは料理できない。なぜなら冷たい肉を鍋やフライパンに載せると熱が一瞬で冷めてしまい、中に火が通りにくく生臭さが残るから。またよく焼こうとすると表面は過熱ぎみになり、肉のジューシーさも抜け落ちてしまう。

だから肉は45分以上前に冷蔵庫から取り出して、室温に戻しておこう。ちなみにボジョレーヌーヴォーも空気を含ませておく方が美味しく楽しめるから、このタイミングで抜栓しておくのがおすすめ。

肉に塩コショウを振る?

肉を焼く前に塩コショウを振るのは常識?魚に塩を振って焼くのは常識だが、肉はそのまま焼いた方が美味しく焼ける。肉に塩を振って焼くと硬くなるし、塩分が肉の内部に入ってしまう。皿の上でステーキ肉をナイフで切り、中心部がピンクの肉片にソースを絡めて食べるので、肉に塩味があるとソースの塩味と上乗せになってしまう。だから肉に塩コショウせずに焼く方がよい。

ステーキの焼き方

ステーキの焼き加減はお好み次第。

英語だとレアー、ミディアム レア、ミディアム、ウェルダン。フランス語だとブル、セニアン、アポアン、ビアンキュイ。

でもほとんどのフランス人はセニアン(ミディアム レア)、火が通っているが中はピンク色が残っている状態を選ぶ。火が通り過ぎると赤身の肉は硬くなってパサパサになる。またサシの入った和牛では甘い旨味が抜けてしまう。

ソースが決め手

フランス料理の重要な要素はソースだ。ただ家庭で楽しむだけなので、そんなに凝らなくてもいい。僕のはちょっと和風の即席ソースだ。

肉を焼いた後のフライパンに残る脂や肉汁に赤ワインをたっぷり加えて煮詰め、トロトロになったら醤油、胡椒、バルサミコ酢を加えて出来上がり。一部は肉に添え、まだ残ったら野菜を炒めて付け合せとすると美味しいし彩になる。実に簡単だ。バルサミコ酢がなければワインビネガーでもいい。

パンでソースをこそぎ取って食べる

せっかくのソースは味の固まり、捨てるのはもったいない。パンで皿からこそぎ取って味わうのが正しいルールだ。ソースを残さず、何にもないきれいなお皿にして調理場へ戻すと、料理人に敬意を払ったことになる。決して卑しくはないので、ぜひ試して欲しい。

だから、パンにオリーブオイルを浸して食べることはあまりおすすめしない。

黒毛和牛のステーキとボジョレーヌーヴォーの味わい

霜降り肉のステーキは柔らかく、口中に溶け出し、牛脂の味が舌の奥から喉に残る。この感覚が好きな人もいるだろうが、僕は苦手だ。ここで超辛口のシュブランさんのボジョレーヌーヴォーを飲む。絡みついていた脂分は一瞬にして消え去り、ワインの淡い香りが入り混じって清涼な印象に変わった。そして軽めのタンニンは牛脂の甘みに絶妙なアクセントとなり、美味しさのレベルがふわっと浮き上がった。

もちろん辛口白ワインでも牛脂感を消せるが、赤ワインで完璧なレベルに断ち切れるこのボジョレーヌーヴォー 2021は稀有な存在だろう。滅多に経験できるものではないので、ぜひお試しいただきたい。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne


*記録的な猛暑だった2022年、ぶどうは完熟し例年よりも3週間以上早い収穫となりました。このため解禁日までに十分な醸造・熟成期間が取れ、史上最高の出来です。ぜひいろいろなお料理と合わせてお楽しみください。