マヴィ代表・田村安オフィシャルブログ

Organic Wine Specialist

コラム

ウクライナ戦争とワイン生産者の嘆き

ウクライナ戦争の悲惨

プーチンのウクライナ侵攻が続く。多くのウクライナ市民が子供が殺害され、家も学校も工場も農場もすべて破壊し尽くされる映像が、毎日世界中に流され続けている。R18指定くらいは掛けて放送すべきなどと言ったら不謹慎だろうが、実におぞましい、見たくも見せたくもない行為。それが戦争だ。

ウクライナは農産品の輸出大国だが、ロシア艦隊が港湾を封鎖して、小麦もトウモロコシもひまわりも輸出できない。おかげで世界の小麦価格は暴騰を続ける。先進国は独裁者の暴走を停めようと経済制裁をかけるが、天然ガスや石油をロシアに依存する中、エネルギー価格も暴騰し、市民生活は大打撃を受けている。そのうちに食料もエネルギーも配給制になりかねないと不安がよぎる。これが戦争だ。

誰が得をするのだろうとよく考えてみたら、アメリカだ。

世界一の産油国であり、穀物輸出国。そして何よりも最先端の兵器生産国なのだから。そしてロシアのミサイル射程からは遠い。

だからアメリカ経済は好調で、賃金も順調に上がるし、なによりドルは強い。戦争が続く方が得なのだから、本気で終わらせようとはしないだろうと読むのは、うがち過ぎた見方だろうか。

ヨーロッパのモノ不足

すぐ隣で戦争が起きているヨーロッパでは、モノ不足と物価上昇が深刻になってきている。

チェコに留学している娘の話では、どこのカフェでも6月までは冷房が効いていたが、7月に入り冷房を切って営業しているとのこと。エネルギー不足で電気代が高騰して節電せざるを得ない。猛暑で40℃と報告される今年のヨーロッパでは、かなりきつい。

段ボール価格も鰻上りだ。ロシアからのパルプが来なければ、紙製品の原料も高騰する。

ガソリン価格はデモが起きるくらい深刻で、物流は大混乱。当然コスト上昇に拍車が掛かるし、そもそも必要なところに荷物が届かない。

ワイン生産への影響

今年4月、フランス・ルーションの生産者のブーリエさんに発注したところ、包材がないから作れないという意味不明な返事で、待てど暮らせど一向にワインはできてこない。ようやく先月、ロゼだけなんとか送ってくれたのだが、気付くと、とんでもない値段になっている。

美しすぎるシャトードルー ロゼのフォルム

僕は、セブリーヌ ブーリエさんは天才醸造家だと常々思っている。ご主人は資産家だから、彼女のワイン造りには一切の妥協が無く、ビンも特注の凝った意匠で美しい。特にロゼは栓までガラス製で、パーフェクトフォルム。

実はガラスビンの値段が天然ガス不足で高騰している。なぜなら、ガラスを高温で溶解しビンに成型するのに大量に天然ガスを使うから。不純物が残っても見えにくい茶色や緑色のビンとは違い、透明のビンは特に高温を必要とすると聞く。

ロシア産天然ガスが入らなくなるのと同時に、大手ワインメーカー達はビンを買い占め、製造ラインもすべて押さえたという。すると小生産者にはビンが入手困難になってしまう。とりわけセブリーヌのように特注ボトルの場合、極めて不利になる。

世界物流への影響

コロナ禍以来続く世界物流の混乱は、ウクライナ戦争でさらに深みにはまってしまった。コンテナ船のスケジュールは乱れて、予約しても載せられるかは不透明。そのうえ燃料サーチャージは天井知らずだ。そもそもドル決済はつらい。

ロシア上空を航空機が飛べないので、ボジョレーヌーヴォーの航空運賃は例年の倍以上の見積もりとなって跳ね返って来た。

平和でなければ安定した貿易業は営めないと痛感している。

苦渋の決断:価格改定

コロナ禍、円安、ウクライナ危機の三重苦で仕入れコストが高騰し、販売価格の値上はせざるを得ない。しかし高くなったコストをそのまま載せてしまうと高くなり過ぎて、お客様は受け入れてくれないのではないか?

「利益を削って値上げ幅を調整するしかない」と経営者として腹を括るが、不安は否めないのも本音だ。

マヴィ代表 田村 安

輸入コストの急激な上昇のため、2022年8月4日に弊社輸入商品の希望小売価格改定を実施いたします。みなさまにはご迷惑をお掛けいたし大変心苦しく存じますが、諸般の事情を勘案してご理解賜りますよう、お願い申し上げます。