マヴィ代表・田村安オフィシャルブログ

Organic Wine Specialist

オーストリア訪問3

Vie Vinum 2010は一般のワイン展示会で、オーガニックワインに特化しているわけではなく、事前に問合わせてもオーガニックワイン生産者は数軒のリストをもらえただけだったので、実はあまり期待していませんでした。
ところが、会場で出展者ガイドを手に入れ、1軒1軒の記載情報を読み込んでみたところ、オーガニックとかビオディナミックとかの記述が結構あります。そこで片っ端からマーカーで印を付けて、生産者スタンドを訪ねて飲んでみることにしました。

その結果の印象は、下記の通り。

1.全般にキレがいいワインが多くレベルが高い。
2.価格は全体的にまあまあで、ドイツよりもコストパーフォマンスがよい。
3.ビオディナミックと名乗っているところには来客が多く、ブームの感がある。
価格がかなり高めだが、味に深みを感じずバランスを欠いているものも多く、
興味あるワインはあまりなかった。
4.90年代後半か2000年以降にオーガニック転換した生産者が多く、
特にビオディナミックは2005年以降に流行となったようだ。
転換中の生産者が多い。
5.外国で勉強や修業した経験を持つ若い生産者が結構いる。
親と一緒に来ていても、親はドイツ語のみ、子供は英語が通じやすい。
6.小規模生産者が多いが、貴族所有の大シャトーさえもオーガニックを始めている。

1日中試飲して、話しを聞きまわり、興味深いオーガニック生産者2人に出会いました。

まずディヴァルドさん。オーガニック転換は1980年と、まだオーストリアではほとんど誰も見向きもしなかった時代からの筋金入り。
流行のビオディナミーと違ってあまり訪問者がおらず、お父さんが暇そうにしていました。
実は2002年にここのワインを飲んだことがあり、ダレた印象だったので、どうせ昔ながらのもっさりとしたワインだろうと、全く期待せずに試したところビックリ!すごいキレてる。
そこでじっくりとお父さんに話をきいてみると、2008年から当時21歳だった息子のマーチンさんに醸造を任すようになり、酒質が一変したとのこと。
マヴィのほとんどの生産者たちと同様に30年間もオーガニックをやっていると、土の生態系は完全。昨日今日転換したばかりの農家と較べれば月とスッポンほどの違いがあります。自然がもたらす力を全て受けたぶどうは力がみなぎっています。昔からのオーガニック生産者なので価格感もよく、さっそく翌日家を訪問することにしました。

オーガニックワイン生産者マントラーさん オーガニックワイン生産者ヨセフ・マントラーさん

もう一人はマントラーさん。こちらは2003年からオーガニック転換を始めて認証を取得したばかりの若葉マーク。とはいえ当主のヨセフさんは50代のベテランで、大学で農業科学を学んだ後外国で研修を積んでいます。
彼のワインはもちろん微生物汚染が全くないキレのよさなのですが、それだけではなく、オーストリア帝国の伝統に即した深いコクやまろやかさを併せ持つ真のGrand Vin(銘醸ワイン)です。いかにも剪定を徹底して収穫量を落とし凝縮させた素晴らしい味わい。
価格はかなり高めでしたが、極めて興味深い作品です。

マントラー家は16世紀から続く歴史あるワイン生産者で、またヨセフさんの奥さんは、オーストリアのビオディナミックを代表するニコライホフのサース女史と姉妹とのこと。それなのになぜビオディナミックをやらないのかと聞くと、「オーガニックは理解できるが、ビオディナミックの唱える理屈がさっぱり理解できない。私は自分でわからないことをやるつもりはない」と、きっぱり流行に乗ることを否定してくれました。
オーガニック転換の理由を聞くと、2002年の嵐と大水害で、工場的な化学農業は終焉に向かうと考え、変化する時に来たと感じたからだそうです。
信念と温かさを併せ持つ、現実的でロマンチストでもある、とても魅力的な人物です。

流行や市場に流されている生産者ではなく、ブレない生産者たち。マヴィの求める基準はこれです。

大きな収穫のあった展示会Vie Vinum 2010でした。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne