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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第33回】しなやかに、伸びやかに

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住し、人気のビストロ「カフェ オニヴァ」改めB&B On y va & Experienceにて体験講徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は、芯はぶれることなく、状況に応じて柔軟に変化した、この1年の農作業を通しての実感です。作物を育てながら私たちが育てられています。[月2回更新]

■農場を開墾してようやく1年余り

 いよいよ梅雨らしく、雨が続いています。今年の神山はびわが大豊作で、あちらこちらでオレンジ色の実がたわわになっているのを見かけます。作業の合間のおやつにぴったりで、鶏たちも大喜びで食べています。日に日に熟す姿も美しく、隣にある柿の木にもまだ小さいけれど、確実に実が育ってきて、季節の移り変わりを感じます。

今年はびわが豊作です
柿の赤ちゃん、直径は2㎝ほど

 今の農場を仲間とともに本格的に開墾し、田畑を初めて1年余り。もともと農地ではありましたが、10年以上農作物が作られることなく放置されていた耕作放棄地だったので、スタート時点では一体いつからどんな風に始めることができるのか…と思える様相でした。ビニールハウス用の立派な躯体が残っているものの、その中も外も、自分たちの背丈を超えるほどの大きな茅だらけ。まずはその茅をひたすら刈って、地面が見えるようにするのが最初の作業でした。

 刈った茅は、地面の水分が抜けないよう、また雑草を抑えるのにも役立つので、植えた野菜の周りに敷いたり、また細かく切って土に混ぜ込むととても良い肥料になるとのことで、農業をする人はそれぞれの茅場を持っているほど大事なものです。茅は丈夫で成長も早いから、茅葺き屋根の材料にも使われていたのでしょう。けれど、1年前の私たちにとっての茅はとにかくただの厄介者。これまで何度か写真でも見せた田んぼや畑、とにかく全てが茅に覆われていました。

■自然の生命力に触れながら

 なので、目にした時はただ途方にくれていたのですが、いざ刈ってひたすら運び出せば、思いの外早く地面が見えてきて(その分刈った茅の大きな山はできましたが…)、希望が見えてきました。その次に大変なのは、その茅の根っことり。なかなか手強くて、ショウセンという鉄の長い棒を脇に刺して、テコの原理を使って根っこを持ち上げて掘り起こしていきます。
 これは最初に全部取り去れるものでもなく、また生えてきたりもするので、今年も折に触れやっていますが、作業にも慣れ、どんどん掘り起こして数も減ってきたので、ずいぶんスムーズにできるようになってきました。そこまでやってようやく、耕したり、堆肥を鋤き込んだり、畝を立てて種をまいたり、苗を植えたりすることができるようになります。

生育途中の稲の苗

 田んぼは同じように茅を刈って根っこを掘り起こし、耕すところまでは同じでしたが、その後水を溜め、よく土を練って(代掻きという作業)、周りから水が漏れないように畦を塗り、練った土が重みで沈み水と分離して落ち着いた段階でようやく田植えができるようになります。そのタイミングに合うように、種もみを浸水後蒔き、最初は暗くしてもやしのようにある程度の長さまで育ててから、徐々に光を当てて稲の苗も育てていきます。 

ひと雨降ると雑草に覆われて…

 冬の間は枯れていた草も、春の声を聞く頃からどんどん芽吹き、梅雨近くにもなれば今度は定期的な草刈りが必須。ひと雨降ると「えー、ほんとに?!」と言いたくなるくらい雑草くんがムクムクと生えてきます。植物の力はとにかくすごい。水分と気温と光、そして土の養分が整えば、全身で力一杯育ちます。

■自身の軸はぶれず、でもしなやかに。

 昨春、思わぬ新型コロナウイルスという、未知の物体の登場で、私たちはこれまでの生活からある意味変わらざるを得ない状況になりました。戸惑いもあったし、どうなるんだろう?という不安ももちろんありました。しかし、向き合う対象であるこの自然豊かな農場があって本当によかった、と毎日過ごしながら実感し、今も改めて思います。外からの不可抗力とも呼べる状況によって、本来やりたかった生活へと大きく舵を切ることができた、とさえ感じています。

 1年余り経った今は、わずか1年の経験でしかないし、まだまだやれることもいっぱいあります。知らないことだらけで、周りの人たちの助けをたくさんもらっているけれど、少し余裕が出てきたように感じています。ひたすら片付けてとにかく形にするのに精一杯だった去年に比べて、「そろそろあれをしなくちゃね」と見通しを立てたり、よりよく、美しくするためにきちんと整えようとすることができたり。ますます面白くなって、やってみたいことにチャレンジしていけるだろうなという希望に満ちています。

代掻き後の田んぼは鏡のようになって本当に美しい。この時期、一日のご褒美です。

 ある意味逆境ではあったけれど、目指している方向性や軸があったことで、自身の中ではブレることなく、でもしなやかに形は変えていく。そんな日々がこの1年だったように感じています。社会的にもまだしばらくは変動が続いていきそうだからこそ、この1年のようにしなやかに、そしてできればさらに伸びやかに過ごしていきたいなと思っています。

(2021.06.23)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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