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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第61回】洗い物から垣間見る世の中

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食の話など…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は日用品の不具合から気づかされた、消費のサイクルに関してのお話です。買い換えた方が安い、直す方が高くつく、そういうものだと思っていたら、ずっと古いものはとても丈夫に作られていたりして。改めて今の物と時間の関係を考え直したくなります。[月2回更新]

■そろそろザルを買い替え時?でも…

気づいてみたらもう8月。
8月??ともう一度確認したくなるほどですが、今年ももう7ヶ月が過ぎ去っていきました。7月、祇園祭に行った高校時代の同級生がLINEのグループに写真をアップしてくれるまで、京都出身でありながら祇園祭のことはすっかり忘れていたのに、今年は阿波踊りあるのかな?どうなるんだろう?とずっと気になっていた私。もうすぐ徳島での暮らしも丸9年になりますが、すっかり阿波の人になったようです。(とはいえ、動画でコンチキチンの山鉾のお囃子を聞いたら、心が京都にビュン、と飛んで行きましたが…)

モクモクの夏の雲と空

ある朝、洗い物をしていた時のこと。
金属のザルの網の部分が壊れてきたことに気づきました。特にこちらで暮らすようになって、レストランを運営していたこともあり、茶漉しや金属のザルが壊れて何度か買い替えているのですが、「ああ、またか、、、」と朝から気分が萎えてしまいました。手に刺さったり、引っかかって危ないし、横から漏れたらザルの役割を果たせないし、ちょっとしたこととはいえ、「まあいいか」と騙し騙し使い続ける…という訳にもいかず、これ買ったのいつだっけ、と次に買うときはどこのにすれば少しは壊れにくいかな、なんて毎回考えることに。

その時ふと、「でもそう言えば実家にあった母のあの金属のザルは、私が子供の頃からずーっとあったから、一体何年使ってたかわからないほどだけど、どこも不具合が出るわけでもなく今でも健在だなあ。」ということを思い出したのです。

きゅうり、セロリ、オクラ、赤紫蘇、さつまいもなどが育ってます

思えば、今私が使っているものは、手軽に手に入るホームセンターや物によっては百均で買ったもの。要は大量に作られた安価な製品です。値段もサイズも手頃だし、とよく考えずに消耗品と同じような感覚で買って使っていましたが、すぐに網の部分が枠から外れてきてしまう。特に茶漉しはひどくて、レストランをやっていた時などは使う頻度も多いので、本当に頻繁にボロボロになってしまって手を焼いていました。
ただ、自分の中でもいつしかそれが当たり前になってしまっていて、もうそういう物だと無意識のうちに諦めていたなあと今となっては思います。けど、そうではなかった。ずっと壊れない物も確かにあったことにふと気づいてしまったんです。

壊れてきたざる(大)と古民家(モノストック)で手にした目の細かい茶漉し

■安くする為、時間のゆとりが減ってしまう負のループ

そう考えると、現代はどんどん買ってもらうために、他所よりも少しでも安く売れる製品を作ろうとした結果、できあがった製品は粗悪なものになってしまいがち。粗悪だからすぐに壊れて、消費者としてはまた買わなくてはならない、の繰り返し。作る側も安く売るためには時間も労力もかけられないから、1つ1つにかける時間はきっと可能な限り短縮されているのだろうけど(それが難しい場合は労働力を安く賄おうとすることになる)、次々壊れてはまた買う人がいるから、手を止めることなくずっとあくせく作り続けなくてはならない状況のはず。とはいえ、薄利多売のモデルなのでずっと作り続けていても働いている人が儲かるわけでも、ハッピーなわけでもなさそう。

一方で、丁寧にしっかりと作られた製品は、作るのにも時間がかかるし、技術もいるので、手に入れるにはそれ相応の対価を支払わねばならないけれど、それは買う側にとっては一生ものの道具になったり、とても使い心地がよかったり、体や動きに馴染む物であったりします。一生のうちに、何度も買う必要がないから、たくさん作る必要もない。ゆったり作れるから、1つ1つに精魂込めて作れるし、手に入れた人にとってもきっと愛着のわくものになっていくはず。それはきっと作る側にも、使う側にもストレスがない暮らしになるんじゃないかしら、と思ったのです。

そういう道具は修理ができることが多いし、修理してでも大切に使いたいと思うけれど、百均で手に入れたものは壊れたら買い替えます。だってその方が安いから。だって、その道具に特に思い入れもないから。でも実のところ、安い物を追い求めた結果、世の中全体が忙しく、ずっと働き続けて時間がなくて、いつも時間に追われているような暮らしになっているのではないかしら?
自分で考えて、選んでいくことがオーガニックなライフスタイルですよ、って謳い続けながら、小さな道具に対しては、あまり考えることなく、なんとなく目の前にあるもので選んでいた(選ばされていた)ことに気づきました。そして、それが自分の中で小さな歪みやストレスを生み出すことにもなっていたんだなと。

まずはどんな物であっても大切に、そのものの寿命を全うさせられるように使うこと。そして、そもそも買う時にはきちんと考えて向き合って選びたいものです。自分の手元にやってくるものはきっと長い付き合いになるのですから。

あのひよこたちもこんなに大きくなってきました

(2022.08.03)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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