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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第39回】ギフトエコノミー

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は物やサービスの循環、私たちの日々の暮らしの中で常に浮上するお金という存在、その役割ってそもそも人間にとって何なのだろう?必要な人に必要なものを差し出すという経済の形についての紹介です。[月2回更新]

■お金と人間と暮らし

 秋の陽はつるべ落としと言いますが、暗くなるのが本当に早くなりました。寮生が外を見て、「うわ、もう真っ暗!」という声を聞いて振り返ると夜7時前なのに確かにもう真っ暗。日々の生活の中で、虹を見つけ、満天の星空に感激し、こうやって季節の変化も敏感に感じ取っている様子を見ると、彼らもいい時間を過ごしているなあと思います。稲の生育もおかげさまで順調。刈り取るまで油断はできませんが、今のところは去年よりも調子がよく、田植えを頑張ってくれたメンバーにも喜んでもらえそうです。

すだちは今が収穫の真っ最中
9月9日時点の稲の様子。こんなに大きくなりました!

 さて唐突ですが、「ギフトエコノミー」という言葉を聞いたことはありますか?日本語で「贈与経済」と表現されていることもあります。これは物やサービスの対価としてお金に換算して社会を動かす資本主義や、持っているものを交換する物々交換でもなく、自分の持っているものを、一切見返りを考えることなく、誰かに差し出し役に立とうとするものです。受け取る側もただそれをありがたく受け取って、また自分が持っているものがあれば誰かに差し出す。それがクルクルと循環することで、資源が必要な人の元へ届くことを目指すというものです。

 確かに、この地球上で生きている生命の中で、お金というものを媒介にして暮らしているのは人間だけです。植物は土や太陽、水の恵みと昆虫や風による受粉、鳥たちが実を食べてどこか別のところで糞をすることで種が遠くに運ばれていく、といった形で生命を継いでいます。動物も食べたり、食べられたり、糞も虫や微生物の餌になって分解されてやがて土になり、それがまた植物の栄養になり…と、餌や受粉媒介というサービスの対価をもらうことは一切ないけれど自然に循環して、地球が保たれています。お金がいっぱいある虫の元に餌がたくさん集まるってこともなく、みんなが必要な分を食べ、残りは別の生命体の餌になっています。

 人間界でも、ボランティアなんかはギフトエコノミーのわかりやすい例かもしれません。お下がりをあげたり、もらったりというのもそうですね。誰かにとってはもう不要なものも、別の誰かにとっては今すぐ欲しいものかもしれないし、誰かが忙しい時に自分は時間に余裕があるかもしれない。自分にとっては簡単にできてしまうことが、誰かにとっては大変で、代わりにやってもらえたらとても助かるかもしれない…。今はお金を払って、あるいは受け取ってやっているそういう行為を、お金を媒介せずにやってみませんか?という1つの試みです。

 私がその言葉を知るきっかけになったのは、『ギフトエコノミー -買わない暮らしのつくり方-』(青土社)という書籍を知ったことです。訳者の服部雄一郎さんはこの書籍以外にも『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)、『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)といった、持続可能な暮らしに直結する書籍を訳されていたり、ご自身もまさにそうした生活を実践されています。ゼロウェイストで有名な神山町の山を越えたお隣の町、上勝町のイベントで数年前にお会いしてからは、服部さんの発信されていることにいろいろ教えられてきました。(服部さんのブログ

■誰か必要な人へ渡ってゆく、物の循環

 そんなある日のこと。私が6月頃まで使っていた冷蔵庫は小型で、ちょっとたくさん買い物してくるとたちまちいっぱいになってしまって不便なこともありました。これまでなんとか凌いできたけれど、いよいよ本腰入れて探さなきゃなあと思い始めて、友人にそんな話をしていたら、以前第16話「住まいの循環、物の循環」で紹介した「モノストック」の担当者から、「浩代さん冷蔵庫いりますか?今探しているって聞いたので。」と声がかかったのです。
まさかの話ですが、状態も大きさもこれ以上ないくらい望んでいたもの。二つ返事で受け取ることにし、今は大活躍してくれています。

我が家から旅立った冷蔵庫

 そこで私もこれまで使っていた自分の冷蔵庫も同じく誰かにプレゼントしてみることにしました。古いものではありましたが、何の問題もなく動きます。私にとっては小さかったけど、誰かにとってはちょうど良いサイズかもしれません。また、車検を機に乗り換えようと決めていた自動車(こちらもまだまだ問題なく乗ることができましたが、偶然別の人から違う車の話をもらったことがきっかけで)も、譲ることにしようと思って、募ってみました。無事自動車も冷蔵庫もそれを必要とする人たちにもらわれていき、新しい生活が始まっているようです。

 思えば神山ではそういうことは本当によく起きていて、みんな気軽に何か必要な時は「まずはどこかに余っていないかな?」、捨てる前にも「誰か必要な人はいないかな?」と考えるのが普通になっているかも。野菜や果物、釣ってきた魚、たくさん作った梅干しやお惣菜などはおすそ分けしてもらうことがしょっちゅう。そう考えると、そもそも暮らしはギフトエコノミーで成り立っていたものなんですよね。

いろんな草花、木が支えあって成り立っています

 最後に、『ギフトエコノミー -買わない暮らしのつくり方-』の一節を引用しておしまいにします。

「経済(エコノミクス)」という言葉は、もともと古代ギリシャでアリストテレスが用いた「家政(オイコノモス)」という単語に由来しています。近代以前の社会では、多くの場合、生産者消費の中心は家庭でした。経済とはつまり、家族みんなが満たされるよう、持てる資源を切り盛りすることだったのです。それはそのままコミュニティ全体の利益に直結しました。ゴールは勝者と敗者をつくり出すことではなく、全体が健全に機能すること。それによって、コミュニティの「いい暮らし」が守られていました。

ギフトエコノミー -買わない暮らしのつくり方-

勝者も敗者もつくり出さず、全体が健全に機能することを考えて暮らしていきたいものですね。

(2021.09.15)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。

 



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