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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第59回】水の流れ

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は森での作業、沢のごみを取り、水の流れの滞りを解消する、沢の再生の話です。枯れているようにみえる状態でも驚くべきことに、徐々に水が流れ出すそうですよ。元々存在する流れや動きを堰き止める要因、これを突き詰めると人にも通じる?私たちも瑞々しい流れをお互いに循環させていきたいですね。[月2回更新]

■森での水を通す作業とは…?

今年は全国的にとても短い梅雨でしたね。私の暮らす四国は梅雨入りしたと思ったら、もう明けたの?とにわかには信じられないほどでした。とはいえ確かに雲は夏の様相を見せ、朝夕こそ涼しくはあるものの、日中の暑さはなかなかのもの。6月末なんだけど、既に季節が夏になったことは肌で感じます。

ただ、これだけ降らないと水不足が深刻になりそう。一方で北海道では浸水するほどの豪雨に悩まされておられたり、今年もまた気候変動を感じざるを得ない状況が続いていますね。

ここは毎年必ず来る泳ぐのにとても気持ちのいい場所

ここ最近の試みとして、自分たちが活動している森にある、水が枯れているように見える沢のごみ(落ち葉や枝など)を取り除きつつ、必要に応じて砂利や石を動かして、再び水の流れを取り戻し、滞りを無くして流れを整えるという沢の再生(という言葉が正しいかは?)を実験的にやってみています。
かつてここに水が流れていたんだろうなと思えるような場所、だけれども今は少し水が溜まっているところはあるものの、川となって流れてはいない、そんな場所です。一見水は枯れているように見えるので、ただお掃除をするように堆積物を取り除いていくことで、表面には見えてなかった水が出てきて、上から下へと流れ出すと本当に爽快です。

この作業の良いところはとにかく何より気持ちがいいこと。見えなかった水が流れ出す達成感はもちろんのこと、お掃除することでその沢だけでなく周りも整理されるのでとてもすっきりとした気持ちになります。さらには、石の置き方や木々の整理の仕方、流れをどうデザインするか等、いろいろ考えるのでクリエイティブな感覚も刺激されます。そして当然ながら森の見た目もよくなります。滞っていた水を再び流し始め、澱みを取り除くという行為は、空気を通すという意味でも森の健康にも役立つと思うし、森の中に動きを与え、生態系や生命活動にも影響を及ぼすと思うのです。

例えばこんな風になっている場所も(ビフォア)

どんな山や森でも雨や水が流れる道はいくつもあって、大小の谷になっているので、実際に水が流れていてもいなくても森を歩いていれば「ここは水の通り道かもしれない」ということはなんとなくわかります。場所によって実際に水がずっと流れているところもあれば、日頃は水が全く見えないところ、ところどころ水溜まりや、じゅくじゅくと水分を多く含んでいる場所など、水の集まり方で状況は変わります。勾配の度合い、木や草などの生え方、人が手を入れているかどうか、動物がよく通るかどうかなどでもきっと違いが出るのでしょう。
そんな場所に例えば大雨などをきっかけに崩れたり、流されたりした土砂が幾重にも降り積もったり、枝や木の葉が堆積した結果、小さな沢は埋まってしまうのだと思います。

ゴミや砂利を取り除いて、水の道を作ります

■人にも共通する、滞りの原因

今回は部分部分には水が見えている場所だったので、これらの堆積物の下にはきっと水があるはずだということも予測がつきやすく、要所要所に溜まっている枝葉、土砂を取り除いていくと水が通り抜けて小さな川ができていき、今まで全く水の流れがなかったところに小川ができたり、窪みの大きなところには小さな滝壺のようなものもできたりして、目に見える風景が大きく変わりました。場所によっては降り積もった土砂が多くて天然のトンネルのようになり、表面の土砂はそのままでも水が貫通しているケースもいくつもありました。

空が映り込んでわかりにくいですが全く水がなかったところに流れ始めました

この作業は、表面には見えないけれど実は脈々と流れているものを明るみに出すということで人と深く話し合う哲学カフェにも通ずるものがあるなと思ったり、もっと言えば人そのものだなと思ったりもしました。物理的に言えば、血液や体液。あれやこれやが重なることで本来の流れが滞ってしまうと肩こりが起きたり、かつての私の膝のように痛みとなって現れたりします。それを整えて流れを再び元に戻すことで体調はよくなります。
精神的にも同じことで、本当は自分の中に流れているものを教育や社会、世間、ありとあらゆる情報が幾重にも自分を覆ってしまった時、その流れは自分にさえも見えなくなり、下手をしたら違和感さえも感じなくなってしまう時があるかもしれません。でも実はそれはただ見えなくなっているだけで、自分の奥深くには変わらず流れ続けているはず。

最近、毎月の神山町での哲学カフェ以外の現場でも哲学カフェを実施することが増えてきたのですが、何気ないテーマの中にもそれぞれの人が自分の中を流れる考えや思いに辿り着けることがあります。そんな時、参加者の表情は明るく輝き、何かが通り抜けたようにすっきりしています。

目に見えない水の流れを探る、黙々と手を動かす作業の果てにこんなことを考えた2022年夏の始まりです。

6月最後の日の夕日。この後さらに複雑な色に空を染めていきました

(2022.07.06)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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