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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第67回】芽吹くタイミング

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食の話など…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は日々の畑作業の中で気づかされた、芽吹きについてのお話です。設定外、準備外の箇所からひょっこり芽を出し成長する作物とそうはならなかった作物。その間にどういった違いがあるのでしょう。「好条件」や「最適解」——植物と人の違いについても改めて考えると面白いですね。みなさんは芽吹きのタイミングを意識したことがありますか?もしかすると、、今かもしれません。[月2回更新]

■蒔いた種とこぼれ種

すっかり秋が深まって、寒いくらいになってきました。

神山町では久しぶりに海外からのアーティスト3名(英国、ポーランド、アルゼンチン)が夏の終わりから滞在して、作品を作っています。このコラムが公開される頃には、展覧会の真っ只中。今年も3人の素材もアプローチもできあがる作品の形式も全く異なるアート作品が間も無くお披露目になります。

神山では今ちょうど端境期にあたるのか、野菜の種類が少なくて、早く菜っぱ類出てこないかなあと待ち遠しく思っています。実際自分の畑に種をまいた水菜、チンゲンサイ、ほうれん草、小松菜もまだ本当に小さい。苗から植えたブロッコリーと白菜は少し大きくなってきたとはいえ、食卓にのぼるまでにはまだ相当かかりそうです。キャベツは苗を植えた翌日には見事に虫に食べられてしまいました。

手前チンゲンサイ、隣が水菜、その奥にほうれん草が元気に芽を出しています

畑では収穫まであと少しの大豆やさつまいも、自分で種をまいたり、苗を植えた葉物野菜のほかに、去年の白菜や小松菜、大根などのこぼれ種がポツリポツリと芽吹いてきました。芽吹いてすぐはわからないのですが、ある程度育ってくると「あれ、こんなところにも!」「あ、この大豆の横のもそうだ!」という感じであちこちに見つかるのです。毎年掘り残しのじゃがいもも土の中に眠っているようで、今年はそれがことのほか多くて、あちらこちらでニョキニョキと元気に育っているのを見ると、生命力というか、まさにこれこそ本来の姿なんだと思ってワクワクするのです。

種が落ちた場所から芽を出しているから、必ずしも好条件の場所ばかりではありません。畝の上ではなく、畝と畝の間の通路に芽を出していることもよくあります。小さい時に気づかずに踏んずけてしまったものもきっといくつもあるのではないかと今となっては思います。畝の上ならまず踏まれる心配はないし、根も生やしやすいはずなので大きくなる可能性が高いと思います。じゃがいもは掘ったときに気づいていないものが芽吹いているので、種芋となった元のお芋が小さいことが多く、残念ながら大きな芋が採れることは少ないのですが、立派なのが出てきて嬉しい驚きなこともあるので、こちらも成長が楽しみです。

阿波晩茶最後の工程、乾かしています

■自分を生かせる環境、人と植物の違い

こうしたこぼれ種は、去年植えた白菜や小松菜が今年の春に花を咲かせ、それをいっそ種取り用にとそのままカラカラになるまで放置しておいたら勝手に種が飛んだり落ちたりしたものです。地面に落ちた種も、畝を立てるときに動かされたり、堆肥と混ぜる時に深く埋められたり、踏まれたり、潰されたりと、今この時期に芽吹くまでの間にいろんなことがあったと思います。夏の炎天下にも晒され、今は急激に寒くなってきて。そんなさまざまな状況を乗り越えて、光と温度が最適になった時、「さあ今だ!」と判断して芽を出してきたのです。それは全部遺伝子に書いてあるんですよね。そうするようにできているんですから、遺伝子って本当にすごいですね。鶏の羽を見ていてもいつも思うのです。こんなデザインのこんな造りのものが体を覆っていて、1つ1つの細胞があの羽根を構成するように遺伝子が決定づけているのですから。

こちら、知らぬ間に畑と全く違うところ(刈った草を積んでいたところ)に芽吹いてきた白菜、小松菜、大根

ただ運悪く、地中深くに埋もれてしまった種は、外界の光も温度も見えなくて、条件が揃ってないので…ということで、芽吹かずに眠ったままでしょう。踏まれて傷ついたり、動物に食べられてしまった種もおそらく少なからずあるでしょう。種そのもののコンディションと外界のコンディションが最適な状況に整った時、初めて芽吹くという現象が起きるわけです。

そこは、人間も同じだなと思うのです。たまたまその職場や学校、クラスが自分にとって最適のパフォーマンスを出せる場であれば、芽吹いてどんどん成長していくだろうけれど、本来の自分をちゃんと出せない、出せる条件が整っていない場にいることもあると思うのです。芽吹くタイミングになっていないだけのこともあるでしょう。植物と人間の違いは、植物の場合、自由意志で動くことができないから、全てが周りの状況任せになってしまいますが、人間は動くことができます。自分がいる場所が最高のパフォーマンスができない場所だと判断したら、状況が許せばその場を離れて、別のもっと自分がいい動きのできる場所へ拠点を変えることも選択肢に入れることができるのです。

また自然に教えられた出来事でした。自然は物理的にも精神的にも、本当にいろいろなことに気づかせてくれます。

薪を割りました、40分くらいでこのくらいの量になります。

(2022.11.02)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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