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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第5回】分かち合える、手の届く範囲に暮らしを取り戻す

徳島・神山町で人気の「カフェ オニヴァ」長谷川浩代シェフの連載

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…これから定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は、ワイン生産者との交流や、神山町での生活を通して見えてきた現代の生活について。[月2回更新]

■ 新茶と“生活”

 5月になりました。5月といえば八十八夜、新茶の季節の到来です。神山町にいると季節の流れや旬を常日頃から感じることができますが、今はお茶。どの農家さんも、お茶を摘んでいて(この文章が皆さんの目に触れる頃にはほぼ収穫は終了)、町内にある加工場に持ち込まれ、薫り高い新茶が作られていきます。

 かつては、どの家の人も自分の家のお茶は自分で作っていたそうです。その名残で確かに量の多少はあれども、どのお宅にも茶畑があり、ゴールデンウィークと茶摘みが重なるこの時期には親戚が集まって茶摘みをするなどという話もよく耳にします。ただ一方でせっかくお茶の木があっても、面倒だったり高齢化に勝てなかったりして放置されているところがどんどん増えているのも事実で、実際ずっとお茶の加工に携わっておられるベテランの方々の話では、加工場に持ち込まれるお茶の量も最近は減ってきているとのことでした。

 もしも今も変わらず、誰もが自分の家のお茶は(ついでに言えば、野菜や米、味噌や醤油なども)自分で作る、という状況が当たり前だったなら、一時的に輸入がストップしても、収入が途絶えても、少なくともとりあえず食べるものはなんとかなるから大丈夫、と思える世界が実現しているのだなあと思ったりします。そうすれば、今直面している新型コロナウイルスが引き起こしているような状況になっても、社会的な不安がもう少し抑えられるのではないだろうかと。
 現代に生きる私たちの生活は、あまりにも遠くの見知らぬ誰かに依存しないと成り立たないようにできているのではないかと思うのです。

柚子の季節には、みんなで集まって柚子味噌を仕込みます

■ 農村から教えてもらえる事

 もちろん、適地適作という言葉もあるように、なんでも全てが身の回りで賄える訳ではないし、遠くのものや異国のものに触れたり、味わったりすることだってしたい。我慢とか無理する生活の話をしているのではないのです。
現にワインだって飲みたいですからね。ただ生活の基盤となるところまで、自分の手の届かないところに全面的に預けて、自立できていないと、見えないところの影響をもろに受けてしまいかねないということです。

 世界的にも農村部は、今でも「自分の家のものは自分で作る」という状況が比較的実現されていると思います。ここ神山町も例外でなく、「大根いるで?(いるか?)」「芋食べるで?(食べるか?)」等々、しょっちゅうお裾分けの声をかけてくださいます。
 食べ物に限らず、道具とかを貸しあったり、手間がえと言って忙しい時にお互いが作業を手伝いあったり、得意な作業を相手のためにしてあげるなど、日々の生活が小さな助け合いにあふれていて、そういう面からも大きな安心を感じます。
 マヴィの農家さんで、既に引退されていますが大好きなラビュゾン家のポーレットさんがかつて私に言ってくれたことを思い出します。
「人は持っているものが多ければ多いほど、取られるのが恐くて、どんどん閉じていって、人が信じられなくなってしまうのね。オーガニックをやっている人は決してお金持ちではないかもしれないけれど、訪ねれば必ず温かく迎えてくれるわよ。人と分かち合うことが好きなのね。」と

長谷川さんとポーレットさん

■お互いを信頼し、分かち合う

 そんな人たちだからなのでしょう。既に退職した私が、カフェオニヴァを一緒に運営する仲間たちを連れて訪問したいと伝えると、皆さん本当に二つ返事でOKしてくれ、これまで4回、毎回数軒ずつお世話になりました。
 これは、マヴィと生産者さんが単純に商売相手として繋がっているからではなく、お互いの信頼関係や、良いものを造って届けたい、マヴィの先にいるお客様たちに喜んでもらいたいという生産者さんたちの想い、そしてマヴィも生産者さんたちにお客様たちが彼らのワインを愉しんでくださっていることを届けて喜んでもらいたい、とそれぞれが相手を思い合う関係があるからこそだと思います。

 どこのお宅でも、本当に歓待いただき、ポーレットさんだけでなく、みなさんがいろんなことを分かち合ってくれました。ワイン造りに関することはもちろん、ぶどう栽培のこと、土作りのこと、オーガニックについて、ぶどう以外の野菜や果樹のこと、地球環境のこと、持続可能な暮らしのこと、人生において大切なことなどなど、本当にたくさんのことを教えてもらい、語り合いました。

交流も大切な分かち合いのひとつ

 分かち合える、手の届く範囲に暮らしを取り戻すこと。それは食べるもの、身に付けるもの、手に取るものに心を傾けること。自分の持ち物を知り、自分が大切に思うことをきちんと認識して大切にしてあげること。
 そういう私もまだまだで、始めやすいものから少しずつ、です。それでも既に気持ちよさや小さな喜び、センスオブワンダーがあふれ出す毎日です。
こんなときだからこそ、考えたり、行動に移せるタイミングなのかもしれませんね。

(2020.5.13)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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