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今日も美味しく、楽しく、気持ちよく――未来につながる日々の暮らし

【第37回】高校生

徳島・神山町からお届けする、美味しく、楽しく、気持ちよい「未来につながる日々の暮らし」

徳島県神山町に在住の長谷川浩代さん。自然豊かな神山での生活や、ワインと楽しめるおいしい食のことなど…定期的にこのスペースで色々なお話を聞かせて頂きます。今回は今年の春から始めている神山町の高校生の寮での交流について。体験して分かる、大人手前の世代と向き合う大切さ、測れない成果などこの先の世の中を構築する際にも指針になりそうな内容です。[月2回更新]

■春から始めている新しいこと

 台風9号が過ぎ去った後の神山町は少し涼しくなり、しばらく雨が続いています。徳島県の南部はもう稲刈りを迎えそうな田んぼがたくさんありますが、台風の影響で致命的とまではいかないまでも稲がなぎ倒されている田んぼがたくさんあって胸が痛みます。ぶどう農家さんも霜や雹など、毎年突然襲ってくる自然災害には悩まされておられましたが、農業のもっとも難しい側面の1つだなと感じます。

台風後に高校生と行った海。海藻がたくさん打ち上げられていました
私たちも台風で周りに張り巡らしていたネットが吹き飛ばされたり…と、鶏さん大丈夫?

 今年の春から神山町にある高校の寮で、高校生たちが暮らしをつくっていく支援を週に2回ほど行なっています。大学を卒業後の私は、経営コンサルティング会社とワイン輸入専門商社のマヴィで働き、その後はカフェオニヴァを友人と立ち上げました。

 子育て経験のない私には、フランスの山の家で毎夏働いていた際に、インターンやアルバイトに来ていた高校生や大学生の子たちと過ごす機会はあったものの、これまでの職歴はこんな感じなので、大人ではない人に向き合って過ごす日々はこれが初めてです。自分の意思や自我はしっかりしていて、能力も体力もどんどん大人に近づいたり、追い越したりしそうな時期。

 大人を目前に控えて、考えを広げたり、深めたり、毎日、毎瞬の体験を重ねて経験をどんどん蓄積していっている時期。本当にスポンジのようにいろんなことを吸収できる時期。社会や大人の矛盾に気づいたり、後から思えば些細なことにも、ものすごく悩んだり、憤ったりする時期…。一生でもっとも多感な期間かもしれない時を神山町で過ごすことを選んだ子供たちとの毎日です。

■測れない成果は存在する

 本当は相手が大人であっても、子供であってもきっと同じことなのでしょうが、高校生と過ごしている時の方が、自分の心や行動を観察することが多いというか、自分を省みたり、自分自身に問いを投げかけていることが多い気がします。最初から学校の先生に代表される子供と日々を過ごす職業を選んでいれば、それが日常となっていくのだろうし、まだ4ヶ月余りしか経っていないのでただ慣れていないだけなのかもしれません。

 でも、これまでと明らかに違うのは、計測可能な成果と呼べるようなものがないことです。これまで携わってきた仕事は売上を上げるとか、お客様からのありがとうや喜びの声をいただくとか、一緒に働くスタッフが気持ちよく働けているかといった形で、自分の取り組んでいることが会社にどう貢献しているか、いわば成果が目に見えやすかったように思います。

みんながサプライズでケーキを作ってお誕生日を祝ったり

 もちろん高校生との毎日にも嬉しいことや喜びはたくさんあるのですが、果たしてそれが相手にどう作用しているのかは全くわからなくて、正解がない中をずっと進んでいくような、モヤモヤとした不確実さの連続です。

 向き合う相手が明らかに不満そうだったとしても、どうしたらよかったのかと考える種を相手の土壌にまいてみることが、いずれはとても大きな花になるかもしれないし、芽も出さないかもしれない。でも1つのやり方として種をまいてみることを選択するとか、今回は肥料をやってみることにしようとか、周りの草を抜いてみようとか。

■育てながら自分も育てられ、世界が広がる醍醐味

 どうしたら一番よかったかは誰にもわからないことに取り組んでいく難しさと、それが相手のこれからに大きく影響していくかもしれないという責任と。自分の弱さやダメなところをめちゃくちゃ突きつけられる場面も多く、こんな歳になってようやく親の気持ちが少し理解できたような気がしています。

 親になるってこういう毎日を過ごすことなんだなあと。昨年から大体月1回ペースで哲学カフェを主催している私ですが、人間というずっと刻々と変化しているものを対象とすることは、とても哲学的な毎日なのかもと思ったりしています。日々無数の答えがあるけれど、決まった正解のない問いに対して考え、あるいは考える暇もなく、その時点で最良と思われる答えを出していくことの連続だからです。しかもその答えは自分のために出すわけではなく、それが影響する範囲は自分だけでもなく、時空も超えていくという複雑さが加わります。

高校生たちと釣りをした日の夕方

 今もこうやってこのコラムを書きながら、自分なりにこの4か月感じてきたことが少し整理されたような気がしています。実はちょうど今日から10日間ほどは閉寮期間に入ります。10日後には2学期に向けて、また寮が少しずつ賑やかになっていきます。この10日の間にも、私の心にも変化が起きることでしょう。それもきちんと味わいたいなと思っています。

 毎年もちろんその時にしかない経験を積み重ねてきたので、今年もまたその延長ではあるのですが、今年は殊更にこれまでの人生にはなかった時間と経験が加わって、私自身の毎日も面白く、豊かになっているなあと感じています。

(2021.08.18)

長谷川 浩代 プロフィール

京都出身。南フランスの人口130人の小さなコミュニティにあるバイオダイナミック農場民宿での体験から、オーガニックな暮らしを日本に伝えるため、マヴィ株式会社にて12年余りヨーロッパと日本を行き来しつつ過ごす。

2013年8月より徳島・神山町に移住、同12月に友人のカフェビストロ、Café On y va をオープン時から共に運営。

(2020年春より、ビストロはB&B On y va & Experienceに)

現在は農園作業に勤しみつつ、料理の提供、料理教室、執筆などを手掛けている。



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