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Le Gout Du Vin-塩澤悠ブログ

ワインの酵母菌とテロワール

「個性」はワインを語る時、最も大切な言葉です。

ワインの「個性」は「テロワール」=地域の「風土」から生まれます。

風土が違うから、育つ葡萄の品種も状態も変わり、ワインに各地域の特徴が反映されます。「違いがあるからこそ面白い」と私は考え、大切に扱われ、尊敬されるべきだと信じています。

ワインの個性は品種や風土、そして作り方から生まれるのですが、今回は作り方の主役、目には見えないがとても大きな存在の微生物「酵母」のお話です。

まず「アルコール発酵」、目には見えない酵母が葡萄果汁の糖分を生命活動のために消費してアルコール(エタノール)を分泌します。

このアルコール発酵のお陰で、私たちはワインを楽しむことができます。

酵母は自然界に元々から存在していますが、私たち人間はワイン醸造に適した酵母菌を採取し、培養して保管し、より使いやすい酵母に改良してきました。

この改良した酵母達は乾燥酵母(Levure Sèche Active)、自然に存在している酵母達は土着酵母(Levure indigène)と呼びます。

乾燥酵母も元々は土着酵母であり、たまたまワイン醸造に適した種類が発見されて培養されて商品化されたものです。ワインの醸造家達は自然に存在する酵母菌を使用することも、商品化された乾燥酵母を使う事も許されています。

ここで気になるのは「乾燥酵母と土着酵母で結局何が変わってくるの?」という事です。

これらの酵母達はワイン造りにおいて全てが良好な存在であるかと言えばそうではなく、中には出来るだけ避けたい酵母だって存在します。

「乾燥酵母」のメリットは管理されていることであり、発酵を促す際に使用すると、ある程度予想された味を生み出すことができます。

逆に「土着酵母」はどの様な味を生み出すのか分かっておらず、予想外な結果になる事もあります。ここは完全に醸造家達の考え方次第です。

先日マヴィの生産者、ボルドーのピヴァ家を訪ねる機会があり、どちらの酵母を使用し発酵しているかという質問をしました。ピヴァ家ではアルコール発酵を促するのに土着酵母を足していると答えてくれました。土着酵母を使用した発酵は予想外な結果を導く事もあるのですが、経験からリスクをできるだけ抑えた使い方を修得されておられます。

少しでも自然に沿ったワイン造りをしようという姿勢が現れています。

先日、ワインの味についてもう一度考えさせられる出来事がありました。

ボルドー大学のDUADでお馴染みのブラインドテイスティングで起きた話です。ある2種類の白ワインを試飲しコメントをするという授業でした。

それぞれのワインは違う香りを放ち、口に含めば違う口当たりや味を放っており、誰が試飲しても全く違う白ワインでした。
一つ目の白ワインは、典型的なボルドーの白ワインだと判断しました。ツゲの葉、グレープフルーツ、爽やかな酸などを感じ取ることが出来て、明らかなボルドーのソービニヨンブランと判断しました。

後者の白ワインは非常にトロピカル、桃などといった香りを放ち、口当たりはとてもまろやかでした。最初のワイン程の自信はないにしてもブルゴーニュ地方の南部のマコン地区のシャルドネかな?など考えながらコメントをしていました。

私のみならず、クラスの全員が衝撃を受けたのは先生が発した次の言葉でした。

「この白ワインは、同じシャトーの白ワイン、品種、畑、ビンテージも一緒でもっと言えば収穫した区域も一緒、醸造、保存方法も一緒、ただ違うのは使用した酵母菌の違いだ。二つ目の白ワインは「ある乾燥酵母」を使用した。」と言い放ったのです。

クラス全体から「信じられない!」と言葉が上がったのは想像に容易いことでしょう。

酵母の種類でここまでワインの個性を打ち消す事ができるのか、別物に変えることが出来るのか、と未だにあの時の衝撃を忘れることができません。

私は乾燥酵母を販売している会社のカタログを入手し、更に詳しく調べてみました。

ワインのアルコール発酵の際に使われている酵母の殆どはサッカロマイセス・セレビジエ種です。

この種類の下には「株」として分類することができ、カタログには品番のように細かい数字や名前が付けられていました。

そのカタログにはサッカロマイセス・セレビジエのそれぞれの違う特徴を持った株がずらりと並べられておりました。発酵時の温度、期間の長さ、出すアロマの違いの特徴などが記されていました。

更には、赤ワイン向け、白ワイン向け、カシスのフレーバーを出す、ポリフェノールの安定性有、プレミアムワイン向け、低温発酵、シャルドネ向け、硫黄系化合物生産抑制効果有りなど数多くの特徴が存在していたのです。

私は今までワインの個性や味は元である葡萄の品種から来て、醸造である程度整えられ、熟成で深みが増す程度に信じていたのですが、まさかここまで「市販の乾燥酵母」によって味に変化が出る、もっと言えば全くの別物にする事ができるのは驚きでしかありません。

「ワインを造る」ということは、葡萄の木が醸造に向いた果実を実りやすいように調整したり、そのための土を耕したりする農作業をすること。収穫が終われば微生物の力を借りて健全なアルコールを作る醸造することです。どちらも自然の一部であるため暴走することだってあります。

栽培家、醸造家の仕事は自然と上手く付き合い、上手にコントロールしながら自分が求める味のワインを造る事だ、と私は信じております。

なので、もちろん一概に乾燥酵母を使ったワインが悪いという訳ではなく、それが造り手の求めていたゴールであるのならば、それが正解です。

正直なところ、ワインを飲むたびに「乾燥酵母」だの、「土着酵母」など気にする必要は全くありません。酵母以外にも味を左右する原因はいくらでもあります。しかし、この酵母がここまでワインの味に影響を与える存在になってしまうことを知ってしまった以上、みなさんにお伝えする責任を強く感じています。

私は今後も多くの生産者を訪ねる機会がありますが、乾燥酵母を使用したワインであっても、土着酵母を使用した酵母であっても公平に試飲をしていきます。ただ、その際に何故その酵母を使用したのか、使用した際の生産者の考え方や哲学をもっと深く学び、その内容を皆様へお伝えしていこうと思います。

そういった考え方、信念、哲学を知ったうえで飲まれるワインは、きっと知る前とでは美味しさが変わってくることでしょう。

(2020.09.29)

塩澤 悠 (しおざわ ゆう)プロフィール
長野県出身。マヴィ特約店「酒のしお澤」塩澤賢治社長の長男。
スイスのホテル学校を卒業後、ワインの見識を深めるためブルゴーニュやボルドーなどの銘醸地で学ぶ。総仕上げとして2019年にボルドー第二大学醸造学部に入学し、DUAD(ボルドー大学醸造学部公認テイスターディプロマ)を取得。
ヨーロッパ滞在中は授業のかたわらワイン産地を駆け巡り、情報収集に励む。
2021年にマヴィ入社。ボルドー大学で学んだ知識や、現地の最新情報を発信中。


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