マヴィ代表・田村安オフィシャルブログ

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オーガニックワインコラム

今年のボジョレーの出来は?|2021年はあまり類を見ない特異なヴィンテージ

2022年のボジョレーについてはこちらをご覧ください

2021年はどんなシーズンだったか?

今年のボジョレーヌーヴォー解禁は11月18日(木)。世界中が新型コロナウィルスCOVID-19の猛威に晒されて2年目の収穫、さらに世界的な気候変動で、日本だけでなくヨーロッパも異常気象となり、2021年はぶどう農家さんたちにとっては対応するのが大変な年でした。

気候からわかること

ボジョレー地方の中心地Villefranche-sur-Saone市の気象チャートを見てみましょう。

昼の暑さは?

寒いはずの2月に暖かく、芽の出る4月に気温が上がらず、6月はかなり暑くなり、7~8月はそのままの気温で止まってしまったことがわかります。

夜の冷え込みは?

日中の気温同様に最低気温も6月が一番高く、7~8月にはかなり冷え込んでいて、1日の平均気温差が10℃もあったことがわかります。

雨は?

5月の降水量が異常に多かったことと、8月の降水量がかなり少なかったことがわかります。

あまり類を見ない特異なヴィンテージか?

今年のフランスワイン生産は昨年の30%減になると報道されています。コロナ禍で機能停止している飲食業界向けの需要が落ち込んでいるための生産調整もあるようですが、やはり異常気象の影響は重大です。4月にフランス全土を襲った猛烈な寒波で大きな被害が出ました。また冷夏の影響も深刻です。

晴天のボジョレー収穫に満足のシュブランさん

ボジョレーの畑では

シュブランさんの畑は4月に-7℃の低温が数日間続き、20~30%の芽が被害を受けています。ただその後は比較的順調で、5月の降雨で枝はよく成長し、6月は開花後のリスクの大きな時期ですが、暖かで雨が少なかったので重大な病気が発生せずに済みました。

7~8月は気温が上がらなかっので積乱雲が発生せず、雹の被害もなく、冷夏でしたが夜間しっかりと冷えて気温差が10℃以上になったので、ぶどうは実に糖分をしっかり貯め込んでいるはず。

8月は雨がほとんど降らなかったの心配でしたが、元々4月の冷害で生育量も減っていたこともあり、旱魃(かんばつ)の影響は小さく、9月になって雨が降り始めてぶどうの実に十分な水分が行き渡ってきました。

雨が多い9月になったのですが、晴れの日を狙って、ランポンさんは19日、シュブランさんは23日に無事収穫できました。

ランポンさんの報告: 収穫は晴れた19日の土曜日に行いました。数日前に雨が降ったのですが、オーガニック畑の草が水を吸収してくれました。最高の年だった昨年ほどではありませんがぶどうの出来は良く、果汁は美味しくてフルーティーです。ワインも美味しくなり、日本の皆様にも楽しんでもらえると思います。

シュブランさんは仕込みで超忙しいようで、写真だけ送ってきてくれました。ぶどうは少し小粒ですが傷の無いきれいな状態に見えます。

収穫されて、醸造タンクに入れらるボジョレーのぶどう(ガメイ)

2021年のボジョレーワインの味わい予想 【2021年9月24日記】

両家とも収穫したぶどうの健康状態は良好とのことで一安心。どちらも熟練の醸造家ですから、ここから先は心配ありません。夏の気温が低かったことから、きっとぶどうの糖度は控えめでアルコール度数は12%程度、酸味がキレイに仕上がり、軽やかで新鮮なベリー系の香りが期待できるのではないかと思います。

ランポンさんの畑は3ha、シュブランさんは6haと、2軒とも極めて小規模な生産者です。そして4月の寒波のため、今年実をつけられたぶどうの樹はずいぶん減っています。残った樹に平年以上の丹精を込めて世話をしたことで、おいしい果汁を得られたのですが、生産量は例年よりもだいぶ少な目で、日本に送ってもらえる量も減ってしまう見込みです

コロナデルタ株の感染拡大のため、昨年に続き今年も、みんなで集まって乾杯…というボジョレーヌーヴォー解禁パーティーは難しそうですが、リモート飲み会という手もありますから、ぜひ新ヴィンテージの幕開けを祝いたいものです。

ボジョレーヌーヴォー 2021 の味わいは? 【2021年11月18日追記】

シュブランさんのボジョレーヌーヴォーを試飲してみました。

口に含むと「超辛口」、脂分を瞬時に断ち切ってくれる鋭角の酸味があります。香りは淡いイチゴの香り。完全に綺麗な食中酒に仕上がっていて、これまでに経験したことのないボジョレーです。

合わせる料理はほどよく脂分と甘さがあるものがいいでしょう。辛口ということは「脂を断ち切る」、口に「甘味」が欲しくなると考えて、紫芋チップスを食べてからボジョレーヌーヴォーを口に含んだところバランスしました。

おすすめのマリアージュは黒毛和牛のステーキ

僕のおすすめは、意外かもしれませんが、黒毛和牛のステーキ。

2021年シュブランさんのボジョレーヌーヴォーにベストマッチする料理は、「程良くサシの入った黒毛和牛のステーキ」でしょう。牛脂が甘みとなるが、脂っこさは口の中に残したくないし。ビーフステーキながら、タンニンの強い赤ワインでは霜降り肉の旨さを殺してしまうし。

僕がボジョレーヌーヴォーにビーフステーキをおすすめしたことは、これまで一度もありません。2021年がそれほど特異なヴィンテージということです。

4月に寒波があり、夏も気温があまり高くならなかった異例の年。アルコール分が11%と昨年より1%も弱く、さらに甘さがなく超辛口となったというのは、ぶどうの糖度が例年よりもかなり低かったということです。

生産者のシュブランさんも今年のヴィンテージを「小さな奇跡」と称するほど困難な年でした。収量もかなり減ってしまったとのことですが、その中でもこのように繊細で綺麗なワインを生み出す腕前はさすがといえるでしょう。

コロナ禍2年目、「こんな年なんだなあ」との思いを込めて味わってみてください。

2021年の収穫日は2021年は9月23日。2020年は8月27日だったので、4週間遅くなっています。つまり醸造期間がそれだけ短くなってしまいました。本当はあと2週間寝かせたかったのですが、解禁日に間に合わすため、仕方ありません。ただシュブランさんのボジョレーヌーヴォーは無濾過なので澱がたくさん入っていて、ビンの中でも急速熟成を続けています。数日間寝かせるだけでも熟成度合が変わって、どんどん美味しくなっていきます。またビン詰めしてから3週間しか経っておらず、まだ香りも味も閉じているため、できれば数時間前に開栓して、しばらく空気に触れさせて目覚めさせてください。開栓した翌日にはより一層開いて美味しくなりますから、無理して飲み干すことはありません。ゆっくりとお楽しみください。

1ヶ月後の味わいは素晴らしい!【2021年12月18日追記】

熟成具合をみるためシュブランさんのボジョレーヌーヴォーを開栓したところ、果実味も香りも仕上がっていた。そこで赤身ビーフのひき肉100%のハンバーグで合わせてみたら、何杯でも飲めてしまうくらい、きれいなマリアージュできた。やはり解禁日よりも育って、ワインとしての美味しさが乗ってきている。今年の天候でここまで高めてくれたシュブランさんにお礼を言いたいと感じた。

田村安

マヴィ代表
著書の「オーガニックワインの本」(春秋社刊)でグルマン・クックブック・アワード
日本書部門2004年ベストワインブック賞を受賞
フランス政府より農事功労章シュヴァリエ勲章受勲
ボルドーワイン騎士Connétablie de Guyenne


*記録的な猛暑だった2022年、ぶどうは完熟し例年よりも3週間以上早い収穫となりました。このため解禁日までに十分な醸造・熟成期間が取れ、今年のボジョレーヌーヴォーは間違いなく最高の出来になります。ぜひいろいろなお料理と合わせてお楽しみください。